フォトグラファー 都英喜さん、55歳。50代を迎えてから人生の転機が訪れたという彼は、プロのフォトグラファーとして第二の人生をスタートさせたばかり。子どもたちが巣立ち一段落した子育て、がむしゃらに働いた会社員生活を振り返りながら、「今が最高に楽しい!」と話してくれた都さんに、フォトグラファーとして生きることを決意した理由を聞いた。
虫の飛翔!? 走る人間!? プロ級のこだわりで撮影に挑んだアマ時代
一眼レフカメラを買ったのは、息子が幼稚園に入園した時です。成長していく姿を写真に撮ってやりたいと思いました。
とはいえ、やりはじめたことは徹底的に追求したくなるタイプなので、どんどん勉強したくなって。幼稚園の行事は月に数回程度、せっかく購入したカメラを持て余すのはもったいないですから、暇があればカメラを持って出掛けていました。
週に一回くらいのペースで撮っていたんじゃないかなと思います。仕事で疲れることがあっても、写真を撮る楽しさで大変なことも忘れてしまうくらい夢中になっていました。
「こういうものを撮る時の設定はコレ」など、カメラの設定が分かるようになると、色んなものを撮ってみたいと思うようになりました。
背景のぼけた写真が撮れるようになったりすると、なんだか撮影が上手になったように感じて、どんどんハマっていきました。
例えば、「虫」!! 昆虫の飛翔を撮るのって面白いんです。蜜を吸いに来るタイミングとか、飛び立つタイミングとか、ずっと構えてシャッターを切る瞬間を待つんですが、だんだんと虫の動きも分かるようになってくるんです(笑)
他にもモデルさんの撮影をしたり、物撮りをしたりと、色んなジャンルが撮れるようになって、少しずつ”フォトグラファー”という仕事を意識するようになりました。
もちろん、子どもたちの撮影にもいい影響がありました。子どもが陸上を始めると、”走る人間”を上手く撮ることにこだわりました。
子どもの陸上大会に応援に行っても、ついつい撮影のことを考えてしまって(笑) 僕ら親は観客席からしか撮影ができないので、プロのフォトグラファーがいいところで撮影しているのを見ると、「あ〜〜〜〜そこからならいい写真が撮れるのにな」と羨ましく思っていました。
「僕にはこれがある」と胸を張って言えるから
飲食店などのサービス業を経て、人材派遣会社でマネジメント業務を担当していました。就業希望者の面接は1万人を超えています。派遣業界ですから、解雇通告をするなんてこともしばしば。良いことも悪いことも共有しながらコミュニケーションを取らなければならない仕事だったので、相手の気持ちに敏感に、そして気持ちに寄り添うことを心がけてきました。
派遣先は新規の現場もありましたし、良好な人間関係を築くためのコミュニケーション力が鍛えられた仕事だったと思います。
趣味で始めたカメラも気づけば20年ほど経って、ジャンルを問わずに撮れるようになってきたので自信がついてきたんです。年齢も50歳を迎えていたので、第二の人生について考えるようになりました。
仕事では新規の事業所を2つ立ち上げ、部下にも恵まれ達成感を感じていたタイミング。家庭では、子どもたちが2人とも成人して、公私共に”区切り”になるタイミングだったので、「今だ!」となりました。
息子には「なんでいきなりフォトグラファーになれるねん?」と驚かれましたが(笑)
家族のことも、仕事のことも、一段落できたタイミングだったからこそ、思い切って飛び込めたなと思います。“家族のために”という働き方から、”自分のために”という働き方になったことで、気持ちが楽になりました。
何より、20年かけて手に職をつけたようなものですから!! 「僕にはこれがある!」と胸を張って言えることが、次のステージに進むための後押しになりました。
子どもたちの世界にある「一瞬のドラマ」を撮りたい
フリーランスのフォトグラファーをするにあたり、仕事のベースを作る必要があったので、年間を通して需要のあるスクールフォトというのは魅力的だなと思いました。
何より、僕自身も子育ての経験がありますし、子どもたちが可愛くて仕方ないんです。スクールフォトへの挑戦はとても自然な流れでした。
目が合えばニコッと微笑んでくれる、ただそれだけで癒しになっています。
それだけではありません。自分の撮った写真が、お子さんたちの保護者やおじいちゃんおばあちゃん、もしかしたら、親戚や友人まで、たくさんの方の癒しになるかもしれない。誰かに喜んでもらえる写真が撮れるというのは魅力的だなと思います。
子どもたちって、本当にピュアですから!! 指示したものを撮るのではなく、自然で、かつ感情が表れるものを撮りたいです。
僕も子育てで経験があるのですが、子どもたちって、園生活の中で保護者の知らない一面を持っていることがあるんです。具体的にこんな優しいことをしたよとか、こんなグループにいるんだよとか、家族には伝えていないこともあるはず。だからこそ、「こんなことしているんだね〜」とか「こんな一面があるんだね」と思ってもらえるような写真を撮りたいです。
子どもたちをよく観察するということでしょうか。子どもたちの何気ない日常には、一瞬のドラマがあると思っています。一瞬の中に秘められた子どもたちドラマを見逃さないように観察しています。
特に、子どもたちの”感情”が見えるようなシーン。やさしい気持ちで助け合いをしていたり、少し怒ってみたり、幼いながらも人間関係の中に喜怒哀楽があります。そのままの感情表現が伝わるような、人間らしさみたいなものを撮ってあげたいなと思っています。
人の気持ちに敏感に ”信頼関係”で撮るいい写真
もちろん、難しいポイントもあります。自分が良いと思ったシーン=みんなが良いと思うシーンとは限らないことです。
フォトグラファーの本能なのかもしれませんが、自分の好きなものを撮りたいと思うものなんです。同じ現場でも、フォトグラファーによって追いかけているものも違いますし、角度や構図も違う。正解がないからこそ、難しさもあるのではないでしょうか。
その答えは、あくまでも受け取り手が判断することで、フォトグラファーは答えのないものを追いかけていくわけですから、こればかりは難しいなと思います。
虫の撮影にしても、スポーツの撮影にしても、動くものを撮影する際は、いつも予測不可能なんです。むしろ、人間を撮影するということは、そこに人の気持ちがありますから、彼らの気持ちの動きに寄り添って観察していると、次はこうするんじゃないかな? と、行動が見えてきます。
前職の仕事柄ですが……人の気持ちに敏感であること、そして人間観察力や洞察力がこの仕事をする上でとても役に立っています。
フォトグラファーの目的は写真を撮ることなので、そのバランスは重要になってきますが、先生や子どもたちとのコミュニケーションを大切にしながら撮影しています。
もちろん、子どもたちに対して、先生たちに対して、それぞれ接し方のポイントは違いますが、コミュニケーションの基本は双方向のやりとりです。
長年営業職として働いてきましたから、自然とお客様との信頼関係作りに重きを置いているのかもしれません。
ご指名をいただけるようになったり、子どもへの接し方についてお褒めの言葉をいただいたりするとうれしいものです。
特に、人物の撮影をするときには“信頼関係”が重要になります。
例えば、モデル撮影をする時は、信頼関係があるだけで写真の完成度が明らかに変わってきます。信頼関係が崩れちゃうと、なんだか上手く撮れないなんてこともよくあります。
子どもたちも人間ですから、本能的にフォトグラファーの表情をよく見ています。相性もありますから、子どもたちはフォトグラファーによって見せる顔も違ったりするんです。完璧に全員と信頼関係が築ければ良いのですが…そう簡単にいかないのが人間関係のおもしろいところ。このフォトグラファーとは相性が良くなかったな〜となっても、他のフォトグラファーとの相性は良いかもしれません。
自然体の子ども達の様子を見せてほしいので、信頼して安心してもらえるようなコミュニケーションを心がけています。
「愛」を見つけるために生きていく
長年生きてきましたが、「愛」についての答えは見つかっていません。むしろ、答えがないものだと思います。
家族を思う気持ちやモノを大切にする気持ちなど、全てに愛がある。愛こそ全てなのかもしれません。
ところが、愛されてうれしいという気持ちもあれば、愛を裏切られて悲しいという気持ちもあったりする。良いことばかりではないのが愛です。無理やりに定義するものでもないですし、愛について思うことは人それぞれ。死ぬまでに答えが見つかるかどうか……なのではないでしょうか。「愛」を見つけるために生きているのかもしれません。
人生最後の瞬間までフォトグラファーでいることです。
フォトグラファーになってから生活が大きく変わりましたが、今がものすごく楽しいんです。写真を撮るのも、仲間と飲みに行くのも(笑)
第二の人生を歩むにあたり、家族の形も大きく変化して、今ではワンルームの住まいが事務所でもあり、僕のお城でもある。ようやく見つけた第二の人生を謳歌したいなと思います。
どんな分野の撮影も3年目、4年目になれば、視野が変化してくると思います。このシチュエーションで撮ってください! と言われたことを、全力で対応できるように、これまで以上に撮影力を向上させて、この道を極めていきたいなと思います。
カメラと出会って人生を大きく変えた都さん、
50歳で見つけた第二の人生はまだ始まったばかり。
その瞳は眩しいほどに輝き、これからの50年をしっかりと見据えている。
人生最後の日まで、カメラと共に…
この覚悟を胸に、人生100年時代を心豊かに生きていく。