穏やかな表情で話をしてくれたのは、スクールフォトグラファー宮田智幸さん、39歳。
物腰も柔らかく、話していても居心地の良さを感じる宮田さん、実は、夜になると、カウンター越しにお寿司を握る“職人”になるという驚きのキャリアを持っている。
寿司職人とフォトグラファー、似ても似つかぬ2つの仕事で二刀流に挑む宮田さんに、その魅力とやりがいを聞いた。
寿司職人、時々、フォトグラファーという人生を選ぶまで
カメラと出会ったのは30歳の頃でした。
その頃、BSデジタル放送の現場で仕事をしていました。テレビ局にカメラマンやアシスタントを派遣する会社に所属していて、私はカメラマンアシスタントとして、スタジオの照明をセットしたり、技術系の仕事を任されたりすることが多かったです。
テレビの世界で働くカメラマンの中には、プライベートで一眼レフカメラを趣味にしている方も多かったので、休憩時間は一眼レフや写真の話題で盛り上がったりしていました。いつか自分もカメラを触ってみたいなと思っていたのもこの頃で、今思うと、これがカメラとの出会いだったように思います。まさか仕事にする日が来るとは思ってもいませんでした。
すぐにフォトグラファーになったわけではありません。
テレビの仕事をしていたのは3年間だけです。テレビの仕事をする前は飲食店で勤めていたので、飲食業のやりがいを忘れられず、テレビの仕事を辞めた後もその世界に戻ってきました。
今は、スクールフォトグラファーと寿司職人の2つの仕事をしています。
昼間は幼稚園や保育園で写真を撮って、夕方からは寿司屋で寿司を握っているんです。
幼稚園の頃に、1人で包丁を使ってりんごの皮を剥いていたくらい、幼い頃から料理をするのが好きだったんです。子どもの頃から好きだったことを仕事にしようと思って、高校卒業後は料理の道へ進みました。料理の専門学校にも通っていましたが、腕を磨くなら現場で学ぼうと思い、思い切って料理の世界に飛び込みました。
色々な飲食店にチャレンジしました。最初に働き始めた居酒屋でいろんなメニューを作らせてもらったので、経験を積むうちに「天ぷら」や「お寿司」など、それぞれ専門のお店で修行して、美味しいものを作れるようになりたいと思うようになりました。
一度は飲食業を離れてテレビの仕事にも携わりましたが、飲食の仕事が楽しかったので、また戻ってきました。それが今の「お寿司屋さん」です。美味しいお寿司を握りたいと思って、寿司職人としての道を歩き始めました。
“残せる喜び”を知ったから
誰かのために届けるものを撮りたいと思った
寿司屋で働く喜びは、お客様に「美味しい‼︎」と喜んでいただけることです。でも、食事はどんなにこだわって作っても、食べたら無くなるんです。寿司職人としては残さず食べてもらえることが一番嬉しいことなのに、なぜか「何も残らない」ということが寂しいと思うようになってきたんです。それから「残せるもの」にも興味を持つようになりました。
「残せるもの」で思いついたのが、「写真」でした。
行動に移すのは早かったと思います。テレビの現場で話題になっていた一眼レフカメラが気になっていたので、家電量販店へ買いに行きました。そこで「D5200」というNikon製品のデジタル一眼レフカメラを買いました。お手頃なエントリーモデルだったので、初心者の自分にも使いやすいカメラでした。それからは、趣味で夜景や人物を撮影するようになって、目の前にあるものを残せる感動を知りましたね。すっかりカメラの魅力に引き込まれていきました。
趣味で撮り始めた写真でしたが、自分だけが楽しむ写真だけではなくて、誰かに届く写真が撮りたいと思うようになったんです。それなら仕事にしたいと思うようになりました。フォトグラファーの世界のことはよく知りませんでしたが、とにかくフォトグラファーとして働けるところを探しました。求人を探し始めてから「スクールフォト」の存在を知って、応募してみたんです。
「誰かに届く写真」を撮りたかった自分にとって、「保護者に届ける写真」を撮るということは、目的が明確でしっくりくる仕事だったんだと思います。
とはいえ、スクールフォトグラファーとしての仕事が決まってからも、寿司屋を辞めるという選択肢はなかったので、寿司職人とフォトグラファーを掛け持ちして働くことになったんです。どちらも大好きな仕事なので、5年経った今でも二つの仕事を続けています。
デビューした頃は、リンクエイジさんとは違う会社でお世話になっていました。初めての撮影は保育園の遠足で、スクールフォト歴15年くらいの先輩フォトグラファーに同行して、色々と教わりながらの撮影でした。
当たり前のことですが、子どもたちって止まれないんです‼︎それが予想以上に大変でした。
動きっぱなしの子どもたちをどう撮れば良いのかなと、戸惑った記憶はあります。
でも、先輩フォトグラファーが撮り方を丁寧に教えてくれたので、すごく楽しかったなという印象が残っています。
先輩は、子どもたちとの自然な対話の中で良い写真を撮る方だったんです。遠足に向かう子どもたちに「あっちに行くと何があるかな?」なんて声をかけながら、子どもたちがワクワクしている様子を写真に撮っていました。
「こっち向いてね」とカメラを意識させることもなく、自然な流れで撮ればいいんだなということを学びました。
子どもたちの様子を見ていると自然と笑顔になりましたし、いい表情をしている子どもたちを撮れると嬉しい気持ちにもなりました。
シャッターを切りながら、ずっと笑顔でいられるって、本当に幸せな現場だなと思いました。
「相手の立場を尊重する」2つの仕事に共通する大切なこと
「笑顔」でいることを一番大切にしています。コロナ禍でマスク生活になりましたから、表情が見えづらいですよね。カメラを持って、マスクもしていると、フォトグラファーの表情が見えない不安があると思うので、眉毛や眉間のシワまで笑顔が伝わるように意識しています。
そして、子どもとの触れ合いを大事にしています。それが一番のやりがいだなと思っています。触れ合いといっても、ただ一緒に遊んで仲良くなるということではありません。
例えば、遠足や外遊びの楽しい場面では明るい表情で撮影しますが、ハサミを使うような真剣な場面では、フォトグラファーがいることで気が散るようなことになってはいけませんから、自分も同じように真剣な表情をして緊張感を出したりしています。場面に合わせた立ち振る舞いが必要かなと思うので、普段から、先生が子どもたちにどのような接し方をしているのかよく見るようにしています。
教室や保育現場の雰囲気を感じながら、その場に馴染んだコミュニケーションを取るように心がけています。そこにいて違和感のない存在というのが大事なんだと思います。
デビューして間もなかった頃、積極的に子どもたちに話しかけすぎて、「子どもたちが保育に集中できないです」と先生からご指摘を受けたことがありました。保育の邪魔をしてはいけませんから、子どもたちとの適切な距離感を理解していなかったなと反省しました。それ以来、先生や子どもたちの話をよく聞き、相手との距離感や相手の立場を尊重した撮影をしたいと思っています。
これは難しいことですが、実は寿司職人の仕事でも同じことが言えます。カウンターに座ったお客様が、常連さんなのか、新しいお客様なのかでも接し方は変わってきますし、一人一人のお客様の気持ちに寄り添った会話や距離感で接客しなければいけません。そのためには、相手の話をよく聞くということが大事になるんです。
フォトグラファーと寿司職人は全く違う仕事ですが、「相手の立場を尊重する」というところでは、共通点があるなと思っています。
子どもたちの成長を「見守る愛」「残す愛」
「残すこと」「見守ること」が、フォトグラファーの愛だと思います。
子どもたちにもいろいろな表情がありますよね。先生だけに見せる表情やお友達だけに見せる表情、その多くは保護者の皆さんが普段見ることのできないものだと思います。だからこそ、私が写真を残してあげたい。その表情を保護者の皆さんに見せてあげたいなと思っています。
そうやって残した写真が、子どもたちが大人になるまで大切にしてくれるかもしれないんです。そう思うと、子どもたち一人一人、たくさんの表情を撮ってあげたいなと思っています。これが私の「残す愛」ですね。そして、子どもたちの成長をそばで見守ることができるのも、スクールフォトグラファーの醍醐味かもしれません。入園から卒園までの3年間、同じ子どもたちを撮らせていただいたことがあります。子どもたちの成長をずっと撮り続けてきたので、卒園式の撮影では感慨深くて涙が出ました。子どもたちの成長を感じることができて、本当に嬉しかったです。
この経験を通して、成長の過程を残すお手伝いをしてきた自分にも誇りを持つことができました。
自分に関わる全ての人に優しいフォトグラファーでいたいなと思います。
リンクエイジさんをはじめ、子どもたち、先生たち、そして保護者の皆さんなど、たくさんの人たちに支えられて今の自分がいますから、そんな皆さんにとって優しい存在でいられるようになりたいです。
優しい人というのは、きっと相手のことを尊重できる人だと思うんです。
そのためにも、寿司職人として、フォトグラファーとして、日々の仕事に向き合っていくことが大切かなと思っています。
体力の限界もありますから、いずれ二刀流を卒業し、どちらかを選ぶ日が来るかもしれません。そんな日が来たら、私はフォトグラファーを選ぶかもしれませんね。そのくらい、自分にとって大切なお仕事だと思っています。
寿司職人とスクールフォトグラファー、どちらの仕事にもプロとしての誇りを持つ宮田さん。 “食”の世界で“残らない”儚さを知った彼だからこそ、“写真”の世界で“残す”ことの尊さに出会い、優しい眼差しで子どもたちを見守っているのだろう。
心に刻むべき愛おしい瞬間を、大切な人に伝える、そんな特別な使命を託されたことに、今日も喜びとやりがいを持って、現場に足を運んでいる。